取材・文:コピーライター 吉田千尋

30年以上通い続けるなじみの店「高はし」は、地元の人に長く愛される江戸前寿司の名店。
水村さんが生まれ育った東京の下町、鐘ヶ淵(かねがふち)。幼い頃、そして青春時代の思い出がつまったこの場所は、画家としての原点でもあります。今日は路地を歩き、描いた風景を訪ねた後、親友たちと待ち合わせしているという老舗の寿司屋「高はし」へやってきました。
(左から)小山進さん、後藤年明さん、吉田政美さん。後藤さんと吉田さんは「水村喜一郎 友の会」副会長。後ろに飾られているのは水村さんの竹紙絵。
「よおっ」「おう!」
お互いに交わす、ごくごく短い挨拶。余計な言葉がいらない間柄が見て取れるようです。
「今日はなんだっけ?」「いつもと同じだろ? 何かあるの?」「まあいいだろう。とにかく乾杯!」
楽しく飲んで食べて語り合う時間に、理由なんかいらない。そんな気の置けない仲間とのひとときが始まりました。
今日集まったのは、家族ぐるみでの付き合いもある仲間たち。同じ小学校出身の後輩である小山進さんと、小学校からの同級生で現在は水村さんの後援会である「水村喜一郎 友の会」の副会長もつとめるお二人、吉田政美さんと後藤年明さんです。
ふと店内を見回すと、そこにはいくつもの水村さんの竹紙絵が。これは、この店の大将である高橋さんが店を継いだ35年前、なじみ客だった後藤さんがお祝いで贈ったもの。「お店の雰囲気がこれで決まったんです。一番のお気に入りはカサゴですね」と、大将がにっこり。

後藤さんが贈った竹紙絵が店内を彩る。のれんも竹紙に書いた筆文字でつくったもの。竹紙の質感が伝わってくる。
竹紙絵を見ながら、後藤さんがしみじみと語ります。
「水村はね、言葉がいいの。しゃべる言葉だけじゃなくて、書く言葉も。こいつはうちに来ると、ふすまに平気でいたずら書きをするんだよ。こっちもわかってて楽しみにしてるんだけど(笑)。この前も自分で墨汁とすずりを持ってきて書いていったよ。これがまたすごくよくて、読んでて涙が流れてきちゃうんだよ」
横で聞いていた水村さんは、
「出まかせの思いつきだけどね」
と笑います。
「水村さんは丸くなりましたよね。30年以上前、会ったばかりの頃はすごく怖かった。いつも『上等だよ!』って目つきでね」
カウンターの中から高橋さんが会話に加わると、「それは子どもの頃から」と間髪入れずに返したのは、水村さんと一番長い付き合いである吉田さん。話題は、「誰にも負けない悪がきだった」という少年時代へ。

水村さんの絵だけでなく「言葉」が大好きだという後藤さん。これまで何度もハッとさせられたひとことがあるとか。

水村さんたちをよく知る大将の笑顔と美味の数々で、会話がさらに弾んでいく。