画家の一言 ~2022年 春夏~

「皆の背の上にのって」 様々な人に支えられて


「皆の背の上にのって」
2022春夏号のカタログ表紙絵「皆の背の上にのって」は、ピラミッド状の人々の上に、口に絵筆をくわえた人物が描写されています。この人物は、たくさんの人たちに支えられて絵を描いているように見えます。私ども協会も、まさに皆様に支えられて60年という長きにわたり活動を続けてまいりました。今回は、「皆の背の上にのって」の作者、黒木洋高に話を聞いてみました。

黒木 洋高宮崎県/口で描く プロフィール この作家のグッズ一覧はこちら
「皆の背の上にのって」を描くに
あたって」

私たちは絵を描くといっても、自ら絵の具を出すことも、筆をとることもできません。私は、当時、新聞やテレビで募集した数人の主婦ボランティアさんに手伝ってもらいながら絵を描いていました。絵を描くだけでなく、生きていく上で、生活全般に誰かの手助けがないと生きていけないのです。この絵の、ピラミッド状に積み上げて描かれている人たちは、まさに私を生かそうと手助けしてくれている人たちで、その頂上で絵を描いている(描かせていただいている)のが私です。
そういう意味で、この絵は、私だけでなく、他の障がい画家においても、私たちの気持ちの原点ではないでしょうか。

私を支えてくれた人たち

とにかく、大きな絵を描いてみたかったのです。この絵は、キャンバスの15号9枚をつないで、一つの絵にしたものです。口に筆をくわえて描くため、どうしても描けるキャンバスの大きさには限度があって、大きな絵を描く方法として、描ける最大のキャンバスに個別に分割して描き、最後につなぎ合わせるという方法を考えつきました。最初に、完成画の数分の1の原画を描き、今度はそれを9枚つなぎ合わせたキャンバスの上に転写するのですが、お手伝いしてもらっていた主婦ボランティアさんだけでは足らず、社会福祉協議会を通して高校生ボランティアさんを紹介してもらい絵の制作を続けました。個別のキャンバスも大きかったため、描く際もキャンバスを縦にしたり横にしたり、ボランティアさんに動かしてもらいながら着色しました。時々キャンバスどうしの絵が上手くつながるか、合わせて見る必要があり、そんな時は各絵をボランティアさんに持ってもらい、皆に一つにひっ付き合ってもらって全体を見ながら描きました。そんな方法で制作したため、絵の方は塗り絵のようなイラストみたいになってしまいましたが、最後まで描き上げることができました。当時は私も30代でまだ若く、今50代になり、自分の思うように絵が描けなくなってきた私にとって、この絵の制作は本当に良い思い出です。そうやって絵が完成した数年後、入院先の病院で、私の看護に当たってくれていた看護師さんが、そのときの高校生ボランティアさんで、処置に来た際、高校生のときにボランティアで私の絵画制作を手伝いに来てくれていたことを聞かされました。絵の手伝いに来てくれていた高校生が、数年後、立派な看護師となって、また私のお世話をしてくれていると思うと、本当に感慨深いものがありました。

自身の作品で好きなものを挙げるとしたら
それぞれに自作の詩を添えて…


「切ない気持ち」
F8号

君の心の中に宿る想いを 僕は訊(き)いたりはしない 誰でも孤独の中で 自分を見つめる日がくる 時のゆりかごに揺られ 癒されていく心


「優しくて、切なくて」
F10号

優しくて切なくて 頑(かたく)ななこの想いを 夢色の絵の具にのせ 夜の空に描けば 僕は今夜星になる 君を見つめる星になる


「幸せの青い鳥」
F6号

何をもたらしてくれる? 私のもとに舞い降りた青い鳥よ

最近の活動について

肺がんや首のジストニアをしてから、首の右側が硬く、しっかり右を向くことができません。描画するにあたって、右をうまく向けないため、描画範囲が小さいことと、細かい部分やきれいな線を描けません。細かく描けないので、パーツを大きくするため漫画のような絵になってしまうこともあります。描きたい気持ちはありますが、以前のように自由に描くことが難しくなってきました。それでも何かを創作したいという気持ちがあって、その方法として、首に負担をかけず使うことができるiPadを選びました。iPadを使い、愛犬コンタの写真を加工した合成画像に、自作の詩を入れフォトブックをつくり、それをフォトブック詩集にしました。詩は自分に対峙したもので、時に想像や妄想?も入れて(笑)、特に何のメッセージもありません。ただ、読まれる方が「自分が全身麻痺の障がい者だったら」と思って読んでいただけると、少しはわかっていただけるかもしれません。

フォトブック詩集 僕は不自由なkonta~詩の中で逢おう~

おわりに

車の自損事故によって、21歳の時に重度障がい者になってから、もう35年が経ちました。ただでさえ不自由なのに、年を重ねるたびにまだ不自由なことがふえてきます。きっとそのうち絵を描くこともできなくなるやもしれません。それでも、どんな状況下にあっても、何らかの形でずっと創造し続けていたいと思っています。何が不自由になったとしても、それができる間は、まだまだ捨てたものじゃないと思うのです。

この人生 夢見がちなあなたと私でいたい 見果てぬ夢の中で頬杖つきながら いつも未来を夢見ていられたら きっとこの人生 素敵なものになるはず
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