画家の一言 ~2023年 春夏~

私の生きる道 「半世紀を障がいとともに」

口で描く画家 南 栄一

1955年8月生まれ、長野県出身。高校3年生の時、柔道の試合中に事故で頚椎を損傷し、四肢マヒとなった南栄一は、3年間の入院後自宅に戻り、ベッドと車椅子の生活を始めました。そんな彼も2023年に68歳になります。障がいを負ってから既に半世紀、彼が歩んできた50年は、そのまま協会とともに、描画という世界を過ごした50年と言えます。彼の半生を、初期から現在までの作品を通して振り返ってまいります。


南 栄一長野県/口で描く画家 プロフィール この作家のグッズ一覧はこちら

私は高校3年生の時、柔道の試合中に頚椎を損傷するけがをし、肩から下の身体の運動機能や感覚までマヒしてしまうという重い障がいを負いました。健常な体から一変して、自分の力では何もできなくなって、次々と希望が消えていくようでした。しかし、家族や周りの多くの人たちの支えの中で、何か今の自分にもできることがないだろうかと考えられるようになり、子どもの頃から好きだった絵を描いてみたいと思うようになりました。そして試行錯誤しながら口に筆をくわえて描き始めました。それから間もなく協会のことを知り、協会の活動や口や足で描く仲間との交流を通して絵を学び、描く喜びを知り、また前向きに生きようとする気持ちが芽生えてきました。

初期作品


「収穫」

3年間に及ぶ長い入院生活中、リハビリのために絵を描き始めました。もともと絵を描くことが好きだったので、その楽しさに引き込まれ、水彩画を手始めに、油彩による風景画や静物画などを、口を使って描くようになりました。
ふるさと長野の景色をまずは描いてみたかったのだと思います。長野と言えばりんご、そして子どもたち。この子どもたちは、当時近所に住んでいた姪や甥です。無邪気な子どもの姿に、明るい希望に溢れた世界を重ね合わせてキャンバスに表現したのだと思います。

平和の祈りを込めて描いた「私の平和の絵」から


「希望の虹」

1978年、世界中の手の自由を失った障がい者たちの団体「口と足で描く芸術家協会」に奨学金給費生として所属できることになりました。
そして2000年、私が描いた「希望の虹」がリヒテンシュタイン公国において「自由2000」と題した記念切手に採用されることになりました。この絵は、雨が上がるときれいな虹が出るように、辛いことや悲しいことの後には、きっと喜びが待っている、そんな思いを表現したように思います。でも、当時は、まさか自分の絵が選ばれるなんて思ってもおらず、それはとても嬉しい驚きでした。
(「口と足で描く芸術家協会」はリヒテンシュタインで設立されたため、リヒテンシュタイン公国が記念切手として採用)

様々なメルヘン画を通して


「マッチ売りの少女」


「ドルフィン」

草原の道を自転車で疾走する少女、トナカイのそりに乗って星空を舞うサンタクロース、マッチ売りの少女など童話の世界、そして海に生きる動物たち。カラフルでメルヘンチックな世界を表現するのは、協会のグッズとしてのカレンダーなどに似合う夢のあるデザインだと思ったからです。1日の大半をベッドの上で過ごす私には、作品のイメージづくりは何よりも重要です。頭の中で「こんなことができたらいいな」と想像することから始めます。協会の活動によって、描かれた絵を多くの人たちに見てもらう機会が与えられ、また、カレンダーや文具などのグッズとなって多くの人たちの手もとで使われていることを思う時、人の心から心へと伝わっていくやさしい波の広がりのようなものを感じることができます。多様化したニーズの中で、描くものにも変化を求められることはありますが、新しいものを作り出していく思いを持ちつつ、変わってはならない大切なものから目をそらさずに描いていきたいと思っています。

時には精密な静物画や風景画も


「コスモス」 自然が持っている色や形の美しさには本当に感動します。素直にありのままを描いていきたいと思っています。


「上高地(河童橋)」 長野県に住んでいる私にとって、上高地は近くにありながら、口で描くようになって大分たってから訪れました。やはり自然の美しさには感動します。山に囲まれた盆地に住んでいるので、こういう景色には安心感のようなものを覚えます。

仲間とともに行った海外旅行


「アマルフィ」

コロナ渦になる数年前、同じ障がいを持つ協会の友人とイタリアへプライベートで出かけました。憧れの国に訪れることができたのは夢のようでした。車椅子での飛行機の乗り降り、車椅子で移動するには大変な石畳の道、苦労はもちろん数多くありましたが、様々な経験ができて本当に楽しむことができました。一生の思い出です。障がいを負ってから静かに生活してきただけの私が、海外へプライベートで出かける、こんな大胆なことができるなんて、協会で知り合った元気で前向きな友人、そしてヘルパーさんの存在、また私たちを支援してくれる皆様に助けられてのことだと思います。
しかし、この「アマルフィ」の作品には納得がいっていません。あんなに憧れた場所だったのに、その嬉しい気持ちが絵にあらわれていないように思えて残念です。再度チャレンジしたい気持ちはありますが、果たしてその夢がかなう日が来るかどうか…。

友と歩いた上高地


「友と歩いた上高地」

絵の中に小さく見える車椅子に乗った友は、イタリアに一緒に出かけた友人です。体調を崩し、気持ち的にも前向きになれない日々が続いていた時、遊びに来てくれた友人と新緑の中をゆっくり散策しました。多くは喋りませんでしたが、一人きりではないのだと思えたのでしょう。少しずつですが、その後、前を向けるようになっていきました。友人への感謝を込めて絵にしたためました。

いままで、そしてこれから

障がいを負った私たちは、もちろん一人では何もできません。誰かの力を借りて生きていくしかありませんが、人は皆、やはり一人では生きていけないのだと思います。私たちにも苦しい時はたびたびあります。そんな時、仲間の誰もが何らかの限界を持ちながら、それぞれの場所で努力していることを思います。日本だけではなく、世界にいる仲間の一人ひとりが、自分が持っている力を使って絵を描き、それを多くの皆さんに見てもらいたいという思いが伝われば幸いです。
私は、生きる喜びを表現したいと思いながら日々絵を描いていますが、難しいことばかりです。口で絵を描くようになりほぼ半世紀、身体の具合等で描くことを休むことはありましたが、やめたいと思ったことは一度もありませんでした。描くことしかできない自分なのだと思います。これからも、うわべだけの美しさにとらわれず、自分の求めるものにしっかりと目を向けて描いていくことを忘れずにいたいと思っています。

南 栄一 の絵からできたグッズ ピックアップ

かや生地ふきん No.738 このグッズの詳細はこちら

ボックスメモ No.311 このグッズの詳細はこちら

クリアファイル No.324 このグッズの詳細はこちら

複製画 No.F102 ドルフィン このグッズの詳細はこちら