画家のアトリエ ~インタビュー、ニュースから画家の素顔をご紹介~

  • 青春の激しさと、人生の温もり

    Vol.1 まもなく個展開催! 今見つめるもの、思うこと

    Vol.2 協会展開催! そして美術館の第2期、スタート

    Vol.3 画家としての原点へ。生まれ育った下町を歩く

    Vol.4 心がある。友がいる。あの頃のままの少年たち

    Vol.5 海辺の町、山里のアトリエ。鴨川で出会った風景とは
  • グループ展に向けて

    生きるよろこび 牧野文幸

青春の激しさと、人生の温もり

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やんちゃで喧嘩ばかりの少年時代
「喧嘩はめったに負けなかった」 といいます。両腕があったときも、なくなってからも。負けん気の強かった少年は、遊び方も度胸試しのようなことばかり。だから、家の中では夢中になって黙々とクレヨンを走らせているなんて、 「カッコ悪くて誰にも言わなかった」

小学校に上がる前からすでに絵描きになりたいと思っていた水村さんですが、その気持ちを胸に秘めたまま成長し、やがて中学生になります。そこで親しくなったのが吉田さんでした。

現在は地元の珠算学校の校長を務める吉田さん。「水村が悪いことをすると、学級委員長の俺が代わりに怒られて立たされてたよ」
「水村とは同じ小学校だったけど、クラスは違うし、一緒に遊ぶ相手じゃないと思ってた。危ないことばっかりしてたからね」 学級委員長もつとめる優等生だった吉田さんが、当時を懐かしそうに振り返ります。


水村さんがアーチに登っては大人たちに怒られていた四つ木橋。中学生になってもまだまだやんちゃだった。
「中学に入ったら、クラスでもサッカー部でも一緒。それで初めてちゃんと話すようになった。絵の話も少しはしてたけど、あまり覚えてないな。とにかく驚いたのが、中学生にもなって大人に怒られるようなことばっかりしてること。四つ木橋のアーチをさ、歩いて渡るんだもん。悔しいから俺も渡ったよ。怖くて途中で引き返したけど(笑)」
「俺は、小学生の頃から平気で登ってたけどね。あそこから川に飛び込んだこともあるよ」 と、水村さんは涼しい顔で答えます。
高校生になった頃、今度は吉田さんの紹介で後藤さんも友人に。当時はおとなしい少年だったという後藤さんは「本当は怖くて、付き合いたくなかった」と笑います。
「誰もが認める爽やかで優秀な吉田君の友達だから遊ぶようになったけど(笑)、本当に大変だった。みんなで一緒に歩いてるとき、腕のない水村をじっと見ているやつがいるとキッと睨み返して、 『おい、後藤、やろうぜ』 って言うんだ。喧嘩が強いことは知ってたけど、いつも必死で止めたよ」

高校時代からいつも一緒だった3人。 「吉田と後藤は、喧嘩ばかりしてた俺のストッパー役。十手持ちみたいなものだから」 と水村さん。

後藤さんが持ってきた懐かしい写真。高校時代、仲間たちと夜行列車に乗って軽井沢の浅間牧場へ旅行したときのもの。旅にはよく一緒に出かけた。左下が吉田さん、中央が水村さん。右が後藤さん。
まったく性格の違う水村さんに惹かれた理由をお二人に尋ねると、「義侠心だろう」と、吉田さん。水村さんは中学校2年のときに養護学校へ転校しますが、そこで見た光景は「障害者だからいじめられる、と泣く仲間たち」。弱音を吐く彼らに驚き、奮い立たせるため、水村さんは得意だったサッカーを教えるようになります。やがて吉田さんも声をかけられ、放課後は養護学校へ出向いてその輪に加わることに。泣いてばかりだった仲間に、どんどん笑顔が広がっていきました。
「水村は、昔から困っているやつを見るとほうっておけない。義侠心のかたまりだった」
後藤さんも「そうだよね」とうなずきます。すると、 「二人ともこんなこと言ってるけど、本当は俺といるといじめられなかったから仲良くしてたんだよ」 と、憎まれ口をたたく水村さん。

やがて水村さんが大学生になってから知り合ったのが、小山さん。同じ小学校出身ですが、6歳年下です。
「水村さんは、僕の人生を変えた『初恋の人』なんです」
突然の告白に、仲間たちは大笑い。その真相を訪ねると……。
「当時中学1年だった僕が荒川の河川敷でサッカーの練習をしていたら、近所だった水村さんが特訓をしてくれました。僕は背が小さいので、サッカー選手としてアピールできるところがなかった。でも左利きだったので、左足で蹴ることを教えてもらったんです。 『でないとお前はもうサッカーやってたってしょうがない』 とまで言われたものだから、それはもう必死になって練習しました」

かつて水村さんにサッカーの特訓を受けたという小山さん。「ものすごく厳しかったですよ」

今でものどかな風景が広がる荒川の河川敷。小山さんと水村さんが出会った思い出の場所。
特訓の成果で、小山さんはめきめきと頭角を現すようになります。その後、高校、大学ともにサッカーの強豪校へ進学し、大活躍することに。
「自分でも、大学までサッカーを続けられるとは思ってなかった。水村さんに出会わなければ、あの素晴らしい日々はありませんでした」という小山さんに、 「俺はぜんぜん覚えてないんだけどね」 と、水村さんは照れ笑いで返します。