
自然光がたっぷり入るアトリエ。
個展をきっかけに“社会復帰”を果たした古小路さんは、それまでの時間を取り戻そうとするかのように、積極的に外に出て人に会うようになる。
「いろんな仲間たちと交流する中で、自分と同じような障がいを持ちながらも、一人暮らしをしている先輩がいることを知りました。そんな中で、これから自分はどう生きていくのか、絵を描き続けるためにはどうしたらいいのか、と考えるようになったんです。そして30歳を過ぎた頃、『たとえうまくいかなくても、やらないで後悔するより、やってみて後悔する方がいい』と思い、東京での一人暮らしを決断しました。
親元から独立したいというのは、ごく自然な感覚ですよね。皆さんが、大学進学や就職をきっかけに一人暮らしを始めるのと同じです。もちろん、家族は心配してくれたし、僕自身も不安がなかったわけではありません。でも、とにかくいろいろ経験してみたかったんです」
そして現在。とりあえず5年頑張ってみる、と思ってスタートした東京暮らしは、既に15年を越えた。
「はじめの数年間こそ、帰省するたびに『また東京へ行くのか』と切なく感じましたが、今では1週間も滞在すると『早く東京へ戻って絵を描きたい』と思うほど、東京の暮らしに馴染んでいます。絵のモチーフを求めて散歩に出かけたり、図書館で資料を探したり。すぐ近くには、同じ境遇にある友人が運営するNPOのオフィスもあるので、気分転換を兼ねてお茶を飲みに行くこともあります。実は、現在取り組んでいる絵は、そのオフィスのスタッフの女性がモデルなんです。女性を描いてみたかったので思い切ってお願いしたところ、快くモデルを引き受けてくれました。あごのライン、目の感じ、肌の質感などをどう表現するか、自分なりに工夫しながら描いています」

近所にある友人のNPOオフィスは気分転換にはもちろん、情報交換の大切な場所。

一人暮らしも15年を超え、東京にもすっかり馴染んだ。