画家のアトリエ ~インタビュー、ニュースから画家の素顔をご紹介~

生きるよろこび 牧野文幸

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「コラボ商品化」という新しいチャレンジ

トートバッグとボックスポーチ
倉敷帆布と牧野の絵文字とのコラボ。

「馬の絵文字」
点画を自由な運筆で描いているうちに、それぞれの点画が馬の部位に見えたのです。

今回のコラボが実現したきっかけは、2014年6月、牧野さんが協会のスタッフとともに、高校の大先輩が会長を務める倉敷帆布の老舗工場「タケヤリ」さんを訪問することから始まりました。牧野さんは、絵を描くことのみならず、身体の調子が悪くて絵が描けない時も「お客様がどんな商品を選ばれ、どんな絵を好むのか」を常に考え、創作活動に励んでいました。
そこで生まれたアイディアが、「Made in Japan」。日本で古くから親しまれてきた伝統的な素材と、牧野さんの絵や書を使ったコラボレーションができないかというものでした。また、牧野さん自身が倉敷出身であることから、地元の老舗企業と共に創作し、倉敷らしいコラボレーション商品を作ることができないか、と考え始めました。そして、倉敷市の花である「藤」を使うこと、美観地区の生子壁や倉敷格子をアレンジしたらどうかと考えた結果、生子壁に馬の絵文字をあしらい、バッグとして持ちやすいモノトーンで仕上げたらどうか、といった企画にまとまりました。その間、牧野さん・協会のスタッフ・デザイナー・タケヤリの担当者と何度もやり取りを交わしました。タケヤリの担当者からは、「女性が好むバッグの形を取り入れた方がいい」、「1アイテムだけでなく、2~3アイテムを出した方がいい」とアドバイスをいただいたり、デザイナーからは、牧野さんが描いた「藤の花」、「馬の絵文字」、「生子壁や倉敷格子」などから様々なデザイン案を出してもらい、牧野さん自身からも、何枚もデザイン案を提出してもらいました。そうして試行錯誤の結果、今回の素敵なコラボレーション商品が誕生することとなりました。そしてこのコラボレーションによる商品化のチャレンジが牧野さんが従来、目指していた「描くことによる社会への参加」をしているという実感を、改めてはっきりと確認することができた出来事となりました。

ご報告 牧野文幸は、大変残念なことに2017年6月4日体調が急変し、志半ばにして親しい人々に見送られながら旅立ちました。

「Go Ahead」
こちらに迫ってくるような躍動感あふれる作品。複製画にも採用。

牧野文幸のことば

絵画というものに、これといった興味があるわけでもなかった私は、何もしていないよりは良いだろうとの思いから「描く」ことを始めた。初めは「ワラにもすがる」に似た気持ちだったかもしれない。しかし、「描くこと」が「ワラ」などではなく、「命綱」であるということに気付くのに、時間はそれほど必要ありませんでした。「死んでいないだけ」の、人生の浪費ともいえる日々を、「生きている」と実感できるものへと一気に引き上げてくれたのです。以来、「描くこと」が、「生きること」の意味や価値を与え続けてくれています。今日まで「生きること」を続けて来れたのは、そして、「生きること」を続けていくためには、支えてくれている大勢の人の力無くしては成しえないものであるということを決して忘れません。謙虚さを保ち、自身にできる努力をしっかりと行っていくことが、全ての人への感謝に繋がると信じて、「生きること」と「描くこと」を続けて行きたいと思います。

【合糸撚糸】【整経】【経通し】【整織】など様々な工程を重ねて帆布生地が出来上がります。

職人さんの手で品質を保ち、丁寧に織られる帆布が生き物の様に動くシャトル織機は圧巻。

倉敷帆布、タケヤリとは

岡山県倉敷市は、全国の帆布生産シェア約70%という一大産地で、中世から江戸時代にかけて綿花の栽培が盛んだったことから繊維業、紡績業が発達しました。帆布(はんぷ)とは、無染の綿や麻の糸を撚り、平織りにした布の事で、英語では「CANVAS(キャンバス)」と呼ばれています。目が詰まっていて丈夫、水漏れしないのに通気性に優れていることで、古くから船の帆や馬具、学生カバンなどにも使われてきました。タケヤリは、児島地区の郷内で1888年から製造が始まり、1~11号のすべての帆布製造を手掛けており、帆布に使われているのは10番単糸という太さの綿糸で、帆布は1本の糸を何本の糸で撚るかで太さを変え、織る事で異なる厚みの帆布を織り上げています。タケヤリの帆布は、ゆっくりと時間をかけて織り上げることで、風合いの良い帆布が生まれます。中でも、1~3号の帆布は、他では織ることの難しい極厚の帆布です。太い糸を密度を入れて織り上げるため、通常の帆布よりも固くしっかりとしています。これらの極厚帆布はタケヤリオリジナルの素材としてファクトリーブランドに展開しています。糸の整経から織り上げ、検査にいたるまで、工場で働く職人の手が紡いでいるため、ぬくもりのある高品質な帆布が生まれます。「帆布といえばタケヤリ」と呼ばれ続ける理由がここにあります。タケヤリでは、帆布の品質を示すために昔から使われていた櫻星のマークを復刻しました。この認証は、タケヤリで織られた生地を示すもので、タケヤリの帆布であるという印として帆布が織り上がった際に刻印されていたものです。今回のバッグやポーチにも、このマークがついております。

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