画家のアトリエ ~インタビュー、ニュースから画家の素顔をご紹介~

生きるよろこび 牧野文幸

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はじめ、個展の開催には気後れするところもあった

それから25年の歳月を経て、初の個展を開くこととなった牧野さん。いつかは個展を開いてみたいと考えてはいたものの、なかなか機会を得られずにいた彼の背中を強く押してくれたのは、油絵をはじめてみないかと声を掛けてくださった先生でした。自分には大きすぎる舞台なのではないかと、少なからず気後れするところもあったという牧野さん。しかし、「美術館」ならではの空間に触発されることで、「生きてきた」ことの「記憶」と「証」を込めた展示を創り出せるのではないかと思い、個展開催を決意しました。個展では、甲乙付け難い絵の中で代表作としてどの絵を選んだらいいか大変苦労したようです。悩んだ結果はスペースも限られていましたので、「青の刻」、「駆ける」、の2点に絞りました。この二点は、自作の詩を付した大作で美術館一階のメーンの壁面で右の写真のように展示しました。二つの絵を囲む「馬」の色紙は、全て字体が違い、支えとなってくれている様々な人々を表していて、良いと言う意味を込めて4()1()枚あります。いわば、この展示全体が、牧野さんの作品になっています。ここで中央の二点の絵と二点の書についてその相関関係と詩の内容を平易な形に翻訳したものをご紹介します。

個展会場にて
二つの絵と詩。それを囲む様々な「馬」の色紙をバックに。

「青の刻」
迷い込んだ林の中、 たちこめる靄(もや)に辺りは青く染められている。
すりぬける風は肌に心地よく、 葉ずれの音は、優しく耳へとすべり込む。
どれくらいの時が流れてしまったのか、 それさえもわからない。
抜け出す道は見つからず、思いは堂々巡り。

「青の刻」は、思い悩む日々の思いを胸に秘めつつも、凜として静かに澄んだ空気の草原で気持ち良さそうに草を食んでいる馬の情景が描かれています。

「青の刻」

「青の刻」に付された自作の詩

「駆ける」
時は来た、さあ、未来に向かって走り出せ。
突き進む先に、恐れるものは何もない。
刻まれた蹄跡は、己の記憶。
もう迷わない、道は果てしなく続いている。

「駆ける」は、勢い良く走り抜ける馬の様子を表現したものですが、悩みの螺旋階段を下り続けていたときに、誰かにきっかけを与えられる(あるいは自分でみつける)ことによって光が差し込んできて、目指すものに向かって力強く走り出す、という意味を込めました。

このように「静」と「動」を対にして並べることによりインパクトのある個展を開催することができました。この個展を開いた経験は、牧野さんにとって「生きること」を続けてこられたこと、そして、これからも「生きること」を続けていくためには、支えてくれる大勢の人たちの力なくしては成し得ないということ。さらに、新しいことにチャレンジするのは、大きなエネルギーが必要だけどワクワク感に満ち溢れていると、気付かされた出来事でした。

「駆ける」

「駆ける」に付された自作の詩

「コラボ商品化」という新しいチャレンジ